【パン屋の裏側】天然酵母と日本一周?!夏休みの相棒は「酵母ちゃん」でした
みなさん、こんにちは!「ひとぱん工房」の店長、ひとみです。
長かった夏季休業も終わり、今週末からいよいよ営業を再開します!
お休み中は、実は日本をぐるっと旅してきました。そして、その旅にはとっても大切な相棒が一緒だったんです。その名も「酵母ちゃん」。
「酵母ちゃん」とは、ひとぱん工房のライ麦パンに欠かせない、ライ麦粉と水だけで育てた天然酵母(サワー種)のこと。生き物なので、お休み中ももちろんお世話が必要です。
今回は、そんな酵母ちゃんと一緒に旅をした夏休みのお話です。旅先での酵母管理の裏側や、慣れない環境でのパン作り、そしてたくさんの失敗を乗り越えて感じたパン職人としての成長について、たっぷりとお話ししたいと思います。
長い夏休み、実は「相棒」と旅に出ていました!
長いお休みをいただき、ありがとうございました!
リフレッシュ期間中、私たちは千葉を出発して、宮城、新潟、金沢、大阪、そして静岡とめぐり、再び千葉に戻ってくるという、ちょっとした日本一周の旅をしていました。
お店の営業は残すところあと4ヶ月。市川のお店でみなさんとお会いできるのも、あと少しだと思うと名残惜しい気持ちでいっぱいですが、ラストスパート、元気いっぱい頑張っていきますね!
さて、今回の旅、実は私ともう一人(一匹?)の大切な相棒がいました。
その子の名前は「酵母ちゃん」。
「酵母ちゃんって一体なに?」と思いますよね。
実はこの子、ひとぱん工房のパン作りに欠かせない「天然酵母」なんです。
今回は、そんな私の大切な相棒「酵母ちゃん」と過ごした、ハラハラドキドキの夏休みについてお話しさせてください。
私の大切な相棒「酵母ちゃん」の正体とは?
「酵母ちゃん」とは、ひとぱん工房のライ麦パンシリーズにはなくてはならない存在。具体的には「サワー種(サワーダネ)」と呼ばれるもので、ライ麦粉とお水だけで育てた自家製の天然酵母のことです。
お店に並んでいる「ロブロ」をはじめ、「ライ麦クルミレーズン」や「フルーツバゲット」といったライ麦を使ったパンは、すべてこの酵母ちゃんの力で、じっくりと時間をかけて発酵させて焼き上げています。
天然酵母って、普通のイーストと何が違うの?
パン作りで一般的に使われる「イースト」は、パン作りに特化した強力な酵母菌を純粋培養したものです。短時間で安定してパンを膨らませることができる、とても優秀な菌です。
一方、天然酵母は、穀物や果物についている野生の酵母菌を培養して作ります。ひとぱん工房の「酵母ちゃん」は、ライ麦粉に付着している酵母菌を育てたものです。
天然酵母には、パンを膨らませる酵母菌だけでなく、乳酸菌などの様々な微生物が含まれています。これらの菌が複雑に働くことで、パンに独特の深い風味や豊かな香り、そしてほのかな酸味が生まれるんです。
まるで秘伝のタレのように、毎日お世話をして菌を繋いでいく「種継ぎ」をすることで、酵母はどんどん安定し、そのお店ならではの味わいを作り出してくれます。
私の酵母ちゃんは、お店でライ麦パンを焼き始めたときに育て始めたので、まだ1歳にもならない若手の酵母。それでも、毎日お世話をすることで、少しずつ力強く、安定したパンを焼けるようになってきました。
天然酵母との旅はハラハラドキドキ!長期休暇の裏側
そんなわけで、酵母ちゃんは正真正銘の「生き物」。
私たちがご飯を食べるのと同じように、酵母ちゃんにも定期的に「ご飯(エサ)」と「お水」をあげないと、弱ってしまい、最終的には死んでしまいます。
これが、私が今まで天然酵母に手を出してこなかった理由の一つでもあります。
長期休暇でお店を閉めてしまうと、その間にお世話ができず、帰ってきたときには酵母が死んでしまっている…なんてことになりかねません。
実際に、天然酵母を使っているパン屋さんでは、お盆休みや年末年始でも、スタッフさんが酵母の種継ぎのためだけにお店に出てくる、なんて話もよく聞きます。
でも、一度始めたからには、この可愛い酵母ちゃんを絶やすわけにはいきません。
「これはもう、一緒に旅に連れて行くしかない!」
そう決心して、酵母ちゃんとの二人三脚(?)の旅が始まりました。
酵母ちゃんのご飯は「ライ麦粉」
酵母ちゃんのご飯は、もちろん「ライ麦粉」です。
これとお水を混ぜてあげるのが「種継ぎ」というお世話。
旅には、酵母ちゃんの入った容器と、ご飯用のライ麦粉、そしてお水を常に持ち歩いていました。
酵母はデリケートな生き物なので、温度管理がとっても重要です。
特に夏場の車内は、あっという間に高温になってしまいます。酵母は暑すぎると死んでしまうので、絶対に放置はできません。
そこで活躍したのがクーラーボックスです。
酵母ちゃんをクーラーボックスに入れ、常に10℃以下の涼しい状態をキープ。旅先で宿に着いたら、まず酵母ちゃんを冷蔵庫に入れてあげるのが日課でした。
人間でいうと呼吸をしているようなもので、元気な酵母は餌をもらうとぷくぷくとガスを出して活動します。でも、元気がなくなると、シーンと静まり返ってしまうんです。
旅の道中、炎天下の車内移動も長かったので、「酵母ちゃん、大丈夫かな…」と、クーラーボックスの中を覗き込むのが日課になっていました。本当に、我が子を心配する親のような気持ちでしたね(笑)。
旅先でのパン作りチャレンジ!大阪で焼いたカンパーニュ
種継ぎをしていくと、酵母はどんどん増えていきます。
増えすぎた分は、一部を取り除いて新しい粉と水を足す「リフレッシュ」という作業が必要なのですが、せっかく元気な酵母を捨ててしまうのはもったいないですよね。
そこで、旅の途中、大阪で一度この酵母ちゃんを使ってパンを焼いてみることにしました。
酵母の元気さを確認するのと、リフレッシュを兼ねた、いわば「力試し」です。
焼いたのは「カンパーニュ」。ライ麦を使った、フランスの田舎パンです。
しかし、そこは旅先。
いつもの工房のように、業務用のオーブンも、正確な計量器も、使い慣れた道具もありません。あるのは、家庭用の小さなオーブンと、最低限の調理器具だけ。
正直、無事に焼ける自信は全くありませんでした。
そこで、今回は思い切ってすべての計量をやめて、「感覚」だけを頼りにパンを作ってみることにしたんです。
- 粉の量も、だいたいこのくらい。
- 水の量も、生地の硬さを見ながら調整。
- 発酵時間も、タイマーはかけずに「そろそろかな?」という生地の状態で判断。
普段のパン作りでは絶対にやらない、かなり無謀な挑戦です(笑)。
こねた生地を、用事があるからとクーラーの効いた部屋に数時間放置したり、発酵の合間に入れる「パンチ(生地をたたんでガスを抜き、生地を強くする作業)」も、生地の弾力や感触を確かめながら、感覚的に行いました。
「発酵させすぎちゃって、焼くときにぺしゃんこになるかも…」
「旅の疲れで、酵母ちゃんの力が弱っていて膨らまないかも…」
そんな不安を抱えながら、オーブンへ。
焼き上がりの時間を待ちました。
失敗は成功のもと!パン職人としての成長を実感した瞬間
実は私、カンパーニュ作りには苦い思い出がたくさんあります。
お店の看板商品「ロブロ」は、意外とスムーズにレシピが完成したのですが、同じサワー種を使うカンパーニュは、なかなか店頭に出せるレベルのものが焼けず、長い間試行錯誤を繰り返していました。
- 大きな気泡がボコボコに開いてしまう
- 目が詰まってカチカチの石みたいになる
- そもそも全く膨らまない
- 生地がデロンデロンで形にならない
酵母は元気に生きているのに、私の「発酵の見極め」が未熟で、ベストなタイミングで焼いてあげることができなかったんです。本当にたくさんの失敗作を生み出してしまいました。
だから今回、慣れない環境で、しかも感覚だけで焼いたカンパーニュがうまくいくとは、到底思えませんでした。
「カチカチで酸っぱいパンになっちゃうかもな…」と、半ば諦め気分だったんです。
ところが、オーブンから出てきたカンパーニュを見て、私は思わず声を上げました。
「うわっ!すごく綺麗に焼けてる!」
不安だった生地はぺしゃんこになるどころか、力強く上に伸びていて(これを「釜伸び」と言います)、クープ(表面の切り込み)も綺麗に開いていました。
カットしてみると、中のクラム(生地の部分)も、理想的な気泡がたくさん入っていて、しっとりもっちり。食べてみると、ライ麦の豊かな風味と、酵母由来のほのかな酸味が口いっぱいに広がって、びっくりするほど美味しかったんです。
この時、私は確信しました。
「あ、私、パン作りが上手くなってる…!」
たくさんの失敗を繰り返したおかげで、知らず知らずのうちに「生地の状態を見極める力」が身についていたんですね。
- 生地を触ったときの弾力
- 発酵後の生地の香り
- パンチを入れたときの手応え
言葉で説明するのはとても難しいのですが、そういった五感で感じる情報から、「今、この生地がどういう状態で、次に何をしてあげるべきか」ということが、自然とわかるようになっていたんです。
計量も温度管理も曖昧な状況だったからこそ、自分の「感覚」を信じるしかなかった。そして、その感覚が正しかったことが、焼き上がったパンによって証明された。
この経験は、私にとって大きな自信になりました。
記念撮影をすっかり忘れて、家族と夢中で食べてしまったのが唯一の心残りです(笑)。
無事に帰還!これからも美味しいライ麦パンをお届けします
たくさんの思い出と、少しの成長を胸に、私と酵母ちゃんは無事に千葉の工房に帰ってきました。
冷蔵庫の中で静かに出番を待っている酵母ちゃんは、旅を経てなんだか少し逞しくなったように見えます。
もし旅の途中で酵母ちゃんがダメになっていたら、また一から酵母を育て直さなければならず、お店のライ麦パンの味が変わってしまう可能性もありました。無事にこの味を繋ぐことができて、本当にホッとしています。
この夏休みの経験を通して、酵母ちゃんとの絆も、パン職人としての技術も、さらに深まったように感じます。
パワーアップした私と酵母ちゃんが焼き上げる、自慢のライ麦パン「ロブロ」。
ぜひ、楽しみにしていてくださいね!
まとめ|営業再開のお知らせ
ということで、今回は私の夏休みの相棒「酵母ちゃん」との旅のお話でした。
天然酵母のパン作りは、手間も時間もかかり、生き物を扱う難しさもあります。でも、だからこそ、うまくいったときの喜びは格別で、そのパンは愛情のこもった特別な味になるのだと、改めて感じることができました。
さて、「ひとぱん工房」は土日から、元気に営業を再開いたします!
旅の思い出をパンに込めて、みなさまのお越しを心よりお待ちしております。
ぜひ、美味しいパンに会いに来てくださいね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!