ひとぱん工房のリニューアル奮闘記:新オーブンがもたらす期待と困難
要約
こんにちは、ひとぱん工房のひとみ店長です。店舗をリニューアルする際に、オーブンの搬入やDIYの作業など、思わぬトラブルとたくさん出会いました。新しい設備でより良いパンを作りたいという気持ちとは裏腹に、鉄板が合わない、ポールが刺さらない、道具がなくなるなど、次々と問題が起きたのです。それでもなんとか乗り越えて、新しいオーブンならではの焼き上がりを目指して奮闘した日々をご紹介します。今回は、私が経験した店舗改装中のエピソードを交えながら、パン屋としてのこだわりや試行錯誤の様子をまとめました。
リニューアルのきっかけと新オーブンへの期待
私が長年パンを焼いてきたひとぱん工房では、店舗のレイアウトを含めて古くなっている部分が多いと感じていました。小麦の香りをもっと引き立てられる空間づくりや、お客様がゆったりとパンを選べるレイアウト、そして作業効率の向上など、改装したいポイントはいくつもあったのです。
特に、オーブンはパン屋にとって心臓部と呼べる存在。生地の香りや焼き色、ふくらみ方はオーブンのコンディションによってかなり左右されます。前のオーブンも長く頑張ってくれましたが、火力のばらつきやメンテナンスの難しさが目立ってきていたので、思い切って新しいオーブンを導入することに決めました。
新オーブンはより高い温度での安定した焼き上がりが期待できるうえ、複数段で一度にたくさんのパンを焼けるのが魅力。お客様が多い日は、いかに速くたくさんのパンを提供できるかが課題だったので、これならば解決策になるはずだとワクワクしていたのです。
搬入から始まった予期せぬ苦労
新オーブンの搬入日当日は、一筋縄ではいきませんでした。まず、店舗の入り口のガラス扉を外し、中との仕切りドアを外さなければオーブンが通らないという大掛かりな作業が必要に。オーブンは重量がかなりあり、800キロ前後ともなるので、動かすだけでも大変。作業員さんたちが声を掛け合いながら、慎重に慎重を重ねて運んでくださったのを覚えています。
古いオーブンを店外に出す時も、「ほんの少し角度を間違えたら大怪我につながるかも」とヒヤヒヤ。ありがたいことに、運び出しや搬入に慣れているプロの方が前回導入の時と同じように来てくれたので、無事に運び出せましたが、かなりの重労働でした。
配置レイアウトの難しさ
オーブンを設置するにあたっては、店内のレイアウトを改めて考え直す必要がありました。何もない状態なら「ここにオーブンを置きます」と決めればいいのですが、パン生地をこねる台や、道具置き場、試作品を置く棚など、既存の設備がぎっしり詰まっている状態。さらに、お客様がパンを選ぶ際の動線や、スタッフが生地を運んだり鉄板を扱ったりする際の安全面も考慮しなくてはなりません。
図面に書き込んでいるうちは「うまくいくはず」と思っていても、実際にオーブンを置いてみると「ここは当たってしまう」「ここは狭くて作業がつらい」など、想定外の問題が出てきます。私自身はパン職人であって内装のプロではないので、改めて「専門家の知恵は大事だなあ」と痛感しました。結果的に、想像以上に時間がかかったのも事実です。
鉄板が刺さらない?オーブントラブルに焦る朝
新オーブンが到着して数日後、実際にパン生地を入れて試し焼きしようと早朝から張り切っていた私。ところが、いざ鉄板に生地を並べてオーブンへ入れようとした瞬間、鉄板がきちんと奥まで刺さらないという衝撃の事態に直面しました。私が使っていたのは通称「6取(ろくとり)鉄板」という全国的に一般的なサイズの鉄板。前のオーブンと同じ大きさの鉄板が使えると思っていたのです。
しかし、新オーブンのレール部分が違う規格に合わせて初期設定されていたようで、鉄板が7センチほど宙ぶらりんになって落ちそうになり、まともに使えない状態でした。早朝だったので業者さんにも電話がつながらず、私は完全にパニック。すぐにスタッフに連絡して相談しましたが、時間だけがどんどん過ぎていきます。
ようやく業者さんにつながったのは昼近く。幸いなことに夕方には調整作業に来てくれることになりました。結局、その朝の仕込みは全てムダになり、貴重な試作用の生地も捨てざるを得ませんでしたが、夕方に来ていただいたおかげで鉄板をセットできるようにレールの幅を変えてもらい、無事に稼働できるようになりました。これでほっと一安心。けれど「もっと早く確認しておけばよかった…!」という思いは残りましたね。
初稼働の不安と試作の日々
オーブンの鉄板問題が解決して、いざ試作を始めたのは改装後の限られた期間。私には「新しいオーブンでの温度や焼き時間の感覚を早くつかまないと、営業日に間に合わない」というプレッシャーがありました。パンは小麦粉や発酵の状態、室温によっても仕上がりが変わってきます。オーブンが変わればさらに焼き色の付き方も微妙に違うので、一つひとつ試して焼成温度とタイマーを調整。想像以上に時間がかかりました。
試作は一日でも早くお客様に新しいパンをお届けしたいという気持ちから。1回の試作では一種類のパンしか焼けないわけではありませんが、それでもタイミングがずれると生地を発酵させすぎてしまうなど、ミスも起こります。それらを経て、なんとか営業にこぎつける頃には、私もスタッフもくたくた。新オーブンをものにするには、まだまだ調整が必要だと感じていました。
お客様の反応に励まされる
いよいよリニューアルオープン初日。正直なところ、新しいオーブンで焼くパンがどう受け止められるか不安でした。長年通ってくださっているお客様に、「前の方がおいしかった」と言われるのが何より心配だったのです。
しかしありがたいことに、「ふわっと感が増した」「香ばしい香りが際立ってる」など、好意的なお声を多くいただきました。もちろんまだ完全ではなく、微調整が必要なパンもありますが、全体的にリニューアルをポジティブに受け止めてくださった雰囲気にほっとしました。改装後は導線を見直したことで店内を回りやすくなり、季節的に涼しい時期ということも相まって、お客様もゆっくりパン選びを楽しめるようになったのもプラスに働いたようです。
DIYで生まれる思わぬ苦労
オーブンだけでなく、ちょっとしたDIY作業でも苦労することが多々ありました。例えば、店内の仕切りに使うポールとアジャスターを自分で組み立てようとしたら、ポールの太さが微妙に合わず、ゴムハンマーで叩いてもなかなか入らない。ホームセンターに相談に行くと、「木のポールは湿度によって少し膨張したりするので、力技でも大丈夫ですよ」と言われてしまい、途方に暮れました。結局割れてしまったアジャスターもあり、予定していた数より使えない部品が出るという悲しい結果に。DIYはお財布に優しい部分もある反面、予定外の手間やリスクが伴うのだと実感しました。
トラブル続きの改装期間
慌ただしいリニューアルの期間には、他にも予想外の出来事がいくつも起こりました。仕事で使うはしご(キャタツ)がいつの間にか見当たらなくなったり、レイアウト変更のために仮で動かした棚がそのまま邪魔な位置に残ってしまったり。改装作業の最中は材料の梱包や道具の配置が仮置き状態になるため、紛失や忘れ物が起きやすかったですね。
振り返ると、どれも「もっと計画的にすれば未然に防げたかもしれない」トラブルばかり。お店の休業期間をもう少し余裕を持って取るべきだったかもしれません。でも結果的には、今までの店舗運営では得られなかった経験と学びをたくさん得られました。改装を考えている方には、意外なところに落とし穴があると知ってもらえればと思います。
新しいパンづくりへの意欲
リニューアル後、まだ数週間しか経っていませんが、新しいオーブンによるパン作りは着実に進化の兆しを見せています。オーブン内の温度が安定する分、生地の甘みと香りをより引き出せるように感じられますし、焼き色の調整も細かくできるので、仕上がりのレパートリーが増えました。
今後は、焦げ目を活かしたハード系のパンや、ふわふわもっちり食感の食パンなど、バリエーションをもっと増やしていきたいと考えています。お客様から「もっとこういうパンがあればいいのに」と言われることもありますし、自分自身も新たなメニュー開発にワクワクしています。
お客様の声とこれからの展望
改装後にありがたいことに増えたのが、ご意見やご感想を直接いただける機会です。「このパン、生地が前より甘くなった気がするけどどうやってるの?」「店内が広く感じるようになったからついゆっくりしてしまう」など、率直なお声を伺えるのは本当に励みになります。まだまだ本調子ではなく、店内レイアウトやパンのラインナップも変更の余地があると思っているので、ぜひ遠慮なく教えていただきたいです。
設備投資とレイアウト変更は大変な負担になりますが、お店を続けていくうえで必要なチャレンジだと実感しました。短い改装期間だったからこそ様々なことが集中して起こり、あたふたする毎日になりましたが、これも一つの成長過程だと思っています。これからしばらくは、営業しながらさらに良い形へと少しずつ仕上げていくつもりです。
まとめ
こうして改装前後を振り返ってみると、日常のパン作りの裏には想像以上にたくさんの苦労があると感じます。ただ、その苦労があるからこそ、お客様の笑顔や「おいしい」という言葉をいただけたときの喜びは大きいのかもしれません。改装後はまだ道半ばですが、これからもおいしいパンを届けるために新しいオーブンを使いこなしていきたいと思います。
もしお近くにお越しの際は、ぜひ新しくなったひとぱん工房へお立ち寄りください。どんなパンが並んでいるのか、前とは何が変わったのか、実際に感じていただけたら嬉しいです。私自身も、より良いパンづくりのための工夫や学びを重ねながら、お客様が笑顔になれるお店を目指していきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。