理想のバゲットを追求する!国産小麦とコンベクションオーブンで生まれる最高の香ばしさ
要約
私が営むひとぱん工房では、国産小麦にこだわったパン作りを続けています。新しく導入したオーブンと発酵器に合わせて製法や工程を見直した結果、思わぬ課題が出てきました。特に、バゲットが理想的な仕上がりにならず、焼き色や穴の大きさなどを追い求めて試行錯誤する日々です。フランス人が理想とするような“ポコポコ”とした穴の空いたバゲットを目指しながら、コンベクションオーブンでもおいしいハード系パンを焼けるよう研究を重ねています。
以下では、バゲットへのこだわりや空洞の秘密、グルテンと生地作りのポイント、そして今後の展望を詳しくお話しします。実は家庭でのパン作りにも活かせるヒントがたくさんありますので、ぜひ参考にしてみてください。
バゲット研究を始めた理由
私が本格的にバゲット研究を始めたのは、“100%国産小麦”というこだわりからでした。バゲットと言えばフランスの代表的なパンですが、フランス産やアメリカ産の小麦を使うと、適度なグルテン量や吸水量の安定感から作りやすい面があります。一方、日本の小麦は品種によってはタンパク質量や灰分量が異なり、生地の出来にも影響が出がちです。でも、地元の食文化や生産者とのつながりを大事にしたくて、やはり国産小麦で挑戦したいと思ったんです。
実際にバゲット作りを進める中で、フランス産やカナダ産の小麦に比べて生地が伸びにくかったり、吸水率が違ったりと、独特の難しさがあることを痛感しました。と同時に、もちもちした食感やほのかな甘みなど、日本人が好む味わいが引き出せる魅力にも気づいたんです。だからこそ「もっとおいしい仕上がりになるはず」と、試行錯誤の毎日を送っています。
オーブンと発酵器を変えた影響
ある時、店舗の規模拡大や設備の更新を考えて、コンベクションオーブンを導入し、発酵器も新しくしました。すると、これまでの作り方とは大きく勝手が変わり、ハード系パンの焼き上がりがうまくいかないという事態に。特にバゲットは、温度や湿度の変化にとても敏感なんです。
「コンベクションオーブンはハード系パンが焼きにくい」と聞いたことがあったので、最初は正直不安になりました。「本当に焼けるのかな?」と、試し焼きを繰り返したのですが、最初はクープが開かず、クラスト(外皮)が色づく前に生地が乾燥してしまったりと、思うようにいきませんでした。
しかし、何度も何度も温度とスチームのタイミングを調整したり、予熱の管理を徹底したりすることで、ようやく「コンベクションでもいけるかも!」という手ごたえを得られました。実は今でも完璧だとは思っていませんが、一定の“おいしさ”には近づけたと感じています。
バゲットの理想と空洞の秘密
バゲットの理想的な状態は、表面の香ばしさと中身のふんわり感、それから断面にポコポコと穴ができることです。これをフランス人はかなり重視していて、「穴がなければバゲットじゃない!」という極端な意見もあるほどなんですよ。私自身も、「大きな穴がボーンと空くだけでなく、程よく細かな穴が全体的に広がる」そんな気泡が理想だと思っています。
バゲットの断面に穴ができる理由は、生地に含まれる酵母の発酵ガスが抜けずにとどまるからです。生地をこね過ぎたり、成形時に空気を潰しすぎるとガスが逃げてしまいますし、逆にまったくこねなければグルテンが形成されず、食感がボソボソになってしまいます。「適度なグルテン形成とガスの閉じ込め」がポイントなんです。
私がよく陥るミスは、配合や温度管理はバッチリなのに、成形の段階で空気を押し出してしまうこと。どうしても形を整えようとして生地を強く扱ってしまうと、せっかくのガスが抜けてしまいます。そこで最近は、成形の際に生地を巻き込むように優しく扱い、締めすぎないように気をつけています。
グルテンと生地作りのポイント
バゲットには中力粉や準強力粉を使うことが多いですが、私の場合、国産小麦の中でもパンに向いた品種をブレンドしています。さらに、水分量(加水率)を上げることで、気泡ができやすく、軽やかな食感を出すように工夫しています。
ただし、加水率を上げると生地がベタつきやすく扱いにくくなるので、オートリーズ(自己分解)という方法を取り入れることがあります。これは、粉と水をあらかじめ混ぜて少し休ませることで、小麦のグルテンを自然に形成させる工程です。最初にしっかりこねるよりも優しく仕上がり、気泡も逃げにくくなります。
また、発酵時間や温度管理も重要。温度が高すぎると生地の表面だけが発酵し、内部にガスが行き渡りにくくなります。逆に低すぎると発酵自体が進まず、焼き色もつきにくい。そこで、二次発酵を低めの温度帯でじっくりさせるなど、パンごとに最適解を探る必要があるんです。
焼成の工夫とクープの開き
バゲットの特徴でもあるクープ(切れ目)の開き具合は、見た目だけでなく、パンの香りや食感にも関わってきます。うまく開くと、そこから余分な水分やガスが逃げ、クラストがパリッと仕上がるんです。一方、開かないままだと、焼き上がった後もどこか重たく感じてしまいがちになります。
クープをうまく入れるには、成形した生地の表面を軽く張らせること、そして包丁やクープナイフの角度を意識することが大切です。私は何度も練習してようやく感覚がつかめるようになりました。特にコンベクションオーブンの場合、スチームを入れるタイミングと量によってもクープの開きは変わるので、本当に奥が深いなと感じています。
実際の失敗談と学び
先日の実験では、私の理想からはかけ離れた失敗バゲットが出来上がり、陳列するのを断念したほどでした。見た目は意外と悪くないのに、「穴がほとんど空いていない」状態で、味もなんとなく重たい感じがしたんです。そこから学んだのは、「生地の持ち味をいかに潰さないか」ということでした。
例えば、成形時に気泡を潰さない工夫として、生地を広げすぎずに巻き込む回数を最小限にする、指の腹を使って優しく生地を扱う、といった細かいテクニックが重要だと再認識しました。これらは家庭でパンを作る場合にも役立つので、ぜひ試してみてください。
おいしさを追求するモチベーション
一見するときれいに仕上がったバゲットでも、「もっと穴がポコポコしてほしい」「もう少しクラストが薄くパリッとしてほしい」など、理想は尽きません。フランス人がこだわる“バゲットの空洞”は、いわば日本人でいうところのご飯の炊き加減に近い感覚なのかもしれません。炊ければ食べられるけれど、理想の食感や香りがあると、そこを追い求めたくなるんですよね。
私もお客様にパンをお出しする際は、おいしく安心して召し上がっていただくことが第一です。ただ、それ以上に「もっと高い品質を目指せる」「もっと進化できる」という想いが常にあります。自分で研究を重ねてみて、ようやく納得のいく仕上がりが見えたときの喜びは本当に格別なんです。
これからの展望
ハード系パンの中でもバゲットは特に難しく、「完璧」というゴールはないのかもしれません。それでも、試行錯誤してプロセスをアップデートすることで、驚くほど味や香り、食感が変わっていくのを身をもって感じています。
今後は、私自身が他のバゲット職人のもとへ足を運んだり、製粉会社主催のセミナーに参加したりして、引き続き学びを深めたいと思っています。また、店舗での製造だけでなく、家庭向けにレシピを紹介したり、ワークショップを開いたりして、より多くの方にバゲット作りの楽しさを知っていただきたいですね。
さらに、バゲットと相性のいい食材との組み合わせやアレンジレシピも今後は充実させたいと思っています。バターやジャムだけでなく、オリーブオイルやチーズ、ハム、そして旬の野菜など、さまざまな食材との組み合わせを提案していくことで、バゲットが持つ可能性をもっと広げていきたいです。
まとめ
バゲット作りはシンプルな材料であるがゆえ、工程や温度管理、加水率、成形の仕方などの小さな差が大きな違いを生みます。特に、国産小麦やコンベクションオーブンにこだわると、一筋縄ではいかないことも多いです。しかし、その分うまくいったときの感動は格別で、「もっとおいしいパンを届けたい」という思いが、私の原動力になっています。
これからも研究と実践を繰り返しながら、理想のバゲットに近づけるように努力を続けていきます。そして、その過程で得た知識やヒントは、皆さんの家庭パン作りにも活かしていただければうれしいです。自分好みのバゲットを焼けるようになれば、毎日の食卓がもっと豊かになりますし、パン作りそのものが楽しみに変わるはずです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。これからもひとぱん工房をどうぞよろしくお願いします。パンを通じて、皆さんの生活がより幸せになれば幸いです。