【パン屋が解説】パンが翌日パサパサになる原因は?しっとり長持ちさせる魔法の製法「湯種」の秘密
こんにちは!100%国産小麦のパン屋さん「ひとぱん工房」の店長、ひとみです。
「買ってきたパンが、翌日にはパサパサになってしまう…」そんな経験、ありませんか?
実はこれ、パン屋さんにとっても大きな悩みの一つなんです。
今回は、そんなパンのパサつき問題を解決し、おいしさをグーンと長持ちさせる魔法のような製法「湯種(ゆだね)」について、そして私の新しい挑戦についてお話しします。
この記事を読めば、
- パンが時間が経つと硬くなる「劣化」の仕組み
- パンをしっとりモチモチに保つ「湯種製法」の秘密
- ひとぱん工房が目指す、新しいパンの食感や美味しさ
などが分かります。パンが好きな方はもちろん、ご家庭でパンを焼く方にもきっと役立つ情報が満載です。ぜひ最後までお付き合いくださいね。
なぜパンは翌日にパサパサになるの?パンの「劣化」の正体
お店で買った焼きたてのパンはあんなにふわふわで美味しいのに、次の日になると少し硬くなってパサついた食感に…。これはパンが「劣化した」ことによって起こる現象です。
パンの主な材料は小麦粉ですが、その主成分は「でんぷん」と「たんぱく質(グルテン)」です。パンを焼く過程で、水分と熱が加えられることで、でんぷんが「アルファ化(糊化)」し、美味しくて消化の良い状態になります。炊きたてのご飯がもっちりしているのと同じ原理ですね。
しかし、パンが冷めて時間が経つと、このアルファ化したでんぷんの構造が変化し、水分が抜けて元の生のでんぷん(ベータでんぷん)に近い状態に戻ろうとします。これを「でんぷんの老化(ベータ化)」と呼び、これがパンが硬くなったりパサついたりする「劣化」の主な原因なんです。
実は、「ひとぱん工房」のパンは、これまで「ストレート法」という製法にこだわってきました。この製法は、材料を一度に混ぜて発酵させて焼き上げるシンプルな方法で、小麦本来の力強い香りや風味を最大限に引き出せるという大きなメリットがあります。
その一方で、作ったパンの水分が抜けやすく、どうしても劣化が早いという側面がありました。お客様からも「翌日になると少しパサついちゃう…」というお声をいただくこともあり、この香りの良さを保ちながら、どうにかしてしっとり感を長持ちさせられないか、というのが長年の課題でした。
しっとり長持ちの救世主!魔法の製法「湯種(ゆだね)」とは?

その長年の課題を解決する鍵こそが、今回私が挑戦を始めた「湯種(ゆだね)製法」です。
「湯種」という言葉、パン好きの方なら一度は耳にしたことがあるかもしれませんね。
これは、小麦粉の一部に熱湯を加えてこね、一晩寝かせておかゆ状に「糊化(こか)」させた生地のことです。
先ほど、パンがパサつく原因は「でんぷんの老化」とお話ししました。湯種製法では、あらかじめ小麦粉のでんぷんを熱湯でしっかりと糊化(アルファ化)させてしまいます。この湯種を本ごねの生地に混ぜ込むことで、たくさんの水分をパン生地の中に閉じ込めることができるようになるんです。
湯種を使ったパンは、水分を保持する力が格段に高いため、時間が経ってもしっとり、もちもちとした食感が続きます。 まさに、パンの劣化を遅らせるための魔法のような製法なんですよ。
これまで私たちは、この湯種を作る手間や、熱湯を使うことによる管理の難しさから導入を見送ってきました。しかし、いろいろと勉強を重ねる中で、国産小麦で作られた便利な湯種用の粉末があることを知りました。
これなら、私たちのパン作りの労力を過度に増やすことなく、お客様にもっと美味しいパンをお届けできるかもしれない!そう考え、挑戦することにしたんです。
ひとぱん工房の新たな挑戦!湯種パンを試作してみました
ということで、早速湯種を使ったパンを試作してみました!
見た目は、今までのパンと大きく変わらない、素朴でシンプルなパンです。しかし、その中身は全くの別物。
まず驚いたのが、パンの断面のツヤです。生地にたっぷりと水分が含まれている証拠ですね。パンの表面がキラキラと輝いていて、見るからにしっとりしているのが分かりました。
そして、これは試作から2日目のパンなのですが…触ってみると、びっくりするくらいふわふわなんです!今までのパンだと、2日目にはどうしても少し硬さが出てしまっていたのですが、この試作パンはパサついた感じが全くありません。
もちろん、風味のピークは焼きたての当日です。それはどんなパンでも変わりません。でも、翌日、翌々日と時間が経っても、このしっとりとした食感が続くという点は、湯種製法ならではの大きなメリットだと実感しました。
驚きの食感!「もちもち」なのに「歯切れが良い」新感覚

湯種パンの魅力は、しっとり感が長持ちするだけではありません。食感にも大きな変化がありました。
湯種を使うと、パンは一般的にもちもちとした食感になります。今回の試作パンも、確かにもっちり感は強いです。でも、ただのもちもちではないんです。
今までのひとぱん工房のパンは、どちらかというと「引きが強い」のが特徴でした。噛むとぐーっと伸びるような、力強い食感です。それも国産小麦の力強さを感じられる魅力の一つなのですが、今回の湯種パンは、もちっとしているのに、スッと歯切れが良いんです。口の中で重たくならず、すっと溶けていくような感覚。これは私たちのお店には今までなかった、全く新しい食感です。
この「歯切れの良さ」は、特に惣菜パンなどで活きてくるかもしれません。生地の量が少ない惣菜パンは、しっかりと焼き込むと、この湯種生地ならサクッと歯切れが良く、より食べやすいパンになるんじゃないかなと、今から想像が膨らんでいます。
お客様が翌日にパンを食べる時の「おいしさ」が、これまでとは格段に違ってくる。その可能性に、私自身とてもワクワクしています。
湯種製法への想いと、ひとぱん工房のこれから
今回の試作はまだ第一歩です。これから配合の微調整などを重ねて、さらに美味しく、ひとぱん工房らしいパンに仕上げていきたいと考えています。
うまくいけば、今後のひとぱん工房のパン生地は、すべてこの湯種製法を取り入れたものに切り替わっていくかもしれません。
例えば、食物繊維やミネラルが豊富な「全粒粉」を湯種にして、それを全粒粉食パンに加えれば、パサつきがちな全粒粉パンが、もっとしっとりと食べやすくなるはずです。もちろん、使用する小麦は今まで通り100%国産小麦。そのこだわりは変わりません。
「少しでも美味しいものを、できるだけ手間をかけすぎずに作り、お客様に届けたい」。そんな想いを実現させてくれるのが、この湯種製法だと感じています。
新しい「ひとぱん工房」のパンがお店に並ぶ日を、ぜひ楽しみにしていてくださいね。
【番外編】シフォンケーキもリニューアル!「ライススターチ」で、もっとしっとりふわふわに

実は、パンだけでなく、人気のシフォンケーキも、もっと美味しくなるようにリニューアルしたんです!
シフォンケーキの改良の鍵は「ライススターチ」。これはその名の通り、お米のでんぷんのことです。
今までのシフォンケーキは薄力粉のみで作っていたのですが、配合にこのライススターチを少し加えてみました。すると、驚くほどしっとり、そしてふわっふわの食感に仕上がったんです!
お米のでんぷんが持つ保水性が、シフォンケーキの生地を乾燥から守り、きめ細かく、口どけの良い食感を生み出してくれます。
パンの湯種製法も、シフォンケーキのライススターチも、どちらも「でんぷんの力」を活かして美味しさを引き出すという点では同じですね。
新しくなったシフォンケーキも、ぜひ一度お試しください。その違いにきっと驚くはずですよ!
まとめ
今回は、パンのパサつきを防ぎ、美味しさを長持ちさせる「湯種製法」と、私たちの新しい挑戦についてお話しさせていただきました。
パン作りは本当に奥が深くて、まだまだ学ぶことばかりです。でも、こうして新しい製法に出会い、試行錯誤を重ねることで、パンがもっともっと美味しくなっていく過程は、本当に楽しくてやりがいがあります。
私たちのパンへの情熱が、このブログを通して少しでも皆さんに伝わったら嬉しいです。
新しく生まれ変わる「ひとぱん工房」のパンを、ぜひ味わいに来てくださいね。皆様のお越しを心よりお待ちしております!