【パン屋店長が語る】カフェ経営が難しい本当の理由と、お店を続けるための思考法
こんにちは!「ひとぱん工房」店長のひとみです。
今回は、多くの方が憧れる「カフェ経営」の裏側にある難しさについて、私の経験を交えながらお話ししたいと思います。
実は、カフェは利益を出すのが非常に難しい業態です。お客様の滞在時間が長く、客単価が低くなりがちだからです。
お店を続けていくためには、お客様が本当に求めているものを見極め、時には「こうあるべきだ」という固定概念に縛られずに柔軟な発想で挑戦していくことが欠かせません。
この記事では、カフェ経営の厳しい現実から、うまくいかない壁にぶつかった時の考え方、そして成功のヒントとなる「お客様視点」の重要性まで、具体的にお伝えしていきます。
これから何かを始めたいと考えているあなたの、一歩踏み出すきっかけになれば嬉しいです。
おしゃれなカフェに憧れるあなたへ。でも、その経営は想像以上に大変なんです

「いつか、自分だけの小さくておしゃれなカフェを開きたいな」
女性なら一度はそんな夢を抱いたことがあるかもしれません。素敵な空間で、美味しいコーヒーや手作りのケーキをお客様に提供する…キラキラして見えますよね。
お客様としてカフェを訪れると、その華やかさや穏やかな雰囲気に魅了されて、「私もこんなお店をやってみたい!」と感じるのは、とても自然なことだと思います。
でも、ちょっと待ってください。その華やかな世界の裏側で、経営者は頭を悩ませていることが少なくありません。何を隠そう、この私もパン屋「ひとぱん工房」をオープンした当初、カフェを併設してその難しさを痛感した一人なんです。
今回は、私が多くの経営者の先輩方から教わったことや、自分自身の経験を通して学んだ「カフェ経営のリアル」について、包み隠さずお話ししたいと思います。
なぜカフェ経営は「難しい」の?利益が出ないカラクリ
「カフェ経営は、飲食業の中でも特に難しいジャンルだよ」
私が20代の頃、お店を持ちたいと夢を語っていた時に、何人もの経営者の先輩から同じようなアドバイスを受けました。「もしビジネスを始めるなら、カフェは選ばないかな」と。
当時は「どうしてだろう?」と不思議に思っていましたが、実際に自分でお店をやってみて、その言葉の意味が骨身にしみて分かりました。一番の理由は、とにかく利益を出しにくい構造だからです。
コーヒー1杯で2時間…あなたのカフェ、人件費を払えますか?
カフェって、お客様に空間と時間を楽しんでいただく場所ですよね。パソコン作業をしたり、本を読んだり、お友達とゆっくりおしゃべりしたり。
例えば、お客様が500円のコーヒー1杯で2時間滞在されたとします。
もし、お店のスタッフの時給が1,000円だとしたら、そのお客様がお帰りになるまでの2時間で、人件費だけで2,000円かかっていることになります。
- お客様からいただく売上:500円
- かかる人件費:2,000円
この時点で、すでに1,500円の赤字です。
もちろん、お店の経費は人件費だけではありません。
- お店の家賃
- 電気・ガス・水道などの光熱費
- コーヒー豆や牛乳などの材料費
- テーブルや椅子、エスプレッソマシンなどの設備費
これら全てを考えると、コーヒー1杯の売上では、とてもまかないきれないのが現実です。
「じゃあ、3時間滞在してくれたら、3,000円くらい使ってもらわないと!」と思うかもしれませんが、カフェで1人で3,000円使うのは、ちょっと豪華なランチコースでも食べない限り、なかなか難しいですよね。
席数を増やせないジレンマ
「ドトールコーヒーさんのように、たくさん席を置いて満席にすればいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、個人経営のおしゃれなカフェの魅力は、なんといっても「ゆったりとくつろげる空間」です。お客様もそれを求めて来店されます。それなのに、利益を出すためにテーブルをぎちぎちに詰め込んでしまったら、その魅力は半減してしまいますよね。
結果として、置ける席数が限られ、一度にお迎えできるお客様の数も少なくなります。お客様の滞在時間が長いうえに、席数も少ないとなると、売上を上げるのは本当に至難の業なのです。
実際に私も「ひとぱん工房」のオープン当初、カフェスペースを設けていましたが、パンのテイクアウト販売がなければ、お店の経営は成り立たなかっただろうな、と断言できます。カフェだけで成功しているお店の多くは、実は裏側で別のビジネスがしっかりと収益を上げていたり、コンサルティング事業を手掛けていたりするケースが少なくないのです。
壁にぶつかった時、あなたならどうする?お店を続けるための思考のヒント

お店を経営していると、必ず「うまくいかないな…」と感じる壁にぶつかります。売上が伸び悩んだり、お客様が来てくれなかったり。そんな時、心が折れそうになりますよね。
でも、そこで諦めてしまうか、次の一手を考えられるかで、未来は大きく変わってきます。
思考停止が一番こわい。「心の余白」をつくる大切さ
「売上が上がらないなら、営業時間を長くしよう!」
「休みを返上して働こう!」
うまくいかない時、ついそんな風に考えてしまいがちです。もちろん、それも一つの方法ではありますが、体力的にも精神的にも限界がありますし、根本的な解決には繋がりにくいことが多いです。
私が大切にしているのは、あえて「何もしない時間」や「考えるための時間」を作ること。いわば「心の余白」です。
お店のことばかり考えて視野が狭くなっている時、良いアイデアはなかなか浮かんできません。一度お店から離れて、本を読んだり、他の業界のことを調べたり、ぼーっとしたりする。そんな余白の時間があるからこそ、新しい視点やひらめきが生まれるのだと信じています。
もし今、何かに追い詰められていると感じているなら、思い切って少しだけ立ち止まってみる勇気も必要かもしれません。
答えは自分の中にはない。ヒントは「うまくいっているお店」にある
自分一人でうんうん唸っていても、解決策が見つからないことは多々あります。そんな時は、迷わず外にヒントを探しに行きます。
私の場合、他県の人気のパン屋さんや、繁盛しているカフェなどをこっそり(笑)見に行きます。そして、ただ「素敵だな」で終わらせるのではなく、
- なぜ、このお店にはお客様がたくさん来るんだろう?
- どんな商品が人気なんだろう?
- どうやって利益を出しているんだろう?
- 自分の店に取り入れられることはないかな?
といった視点で、じっくりと観察し、考えるんです。自分にないものを持っているお店から学ぶ姿勢は、どんなビジネスにおいても非常に重要だと思います。
パン屋の常識を覆した「コンベクションオーブン」との出会い
外に学びに行くと、時には自分の「当たり前」が、ガラガラと崩れ落ちるような経験をすることがあります。
私にとって、それはコンベクションオーブンとの出会いでした。
パン屋の世界では、パンを焼くなら「デッキオーブン」という、大きくて本格的なオーブンを使うのが常識、という風潮があります。私もずっとその中で修行してきたので、それが当たり前だと思っていました。
一方、コンベクションオーブンは熱風を循環させて焼くタイプで、パン屋からすると少し「邪道」というか、家庭用のオーブンの延長線上にあるようなイメージを持たれがちです。
ところがある時、本で紹介されていたある超人気パン屋さんが、そのコンベクションオーブンを使って、驚くほど美味しいパンを焼いていることを知ったのです。しかも、その理由を理論立ててしっかりと説明されていて、まさに目から鱗でした。
「道具や常識に縛られてはいけないんだ」
「お客様に美味しいと喜んでもらえるなら、それが一つの正解なんだ」
この経験は、私のパン作りに対する考え方を大きく変えるきっかけとなりました。もし、私が「パン屋はデッキオーブンであるべき」という固定概念に縛られていたら、今の「ひとぱん工房」のパンは生まれていなかったかもしれません。
あなたの「こだわり」は、お客様の「欲しい」と一致していますか?
お店をやる上で、自分の「こうしたい」「こういうものを作りたい」という軸を持つことは、もちろん非常に大切です。
しかし、そのこだわりが強すぎるあまり、お客様が求めているものからズレてしまっては、ビジネスとして成り立ちません。お店は、お客様がお金を払ってくださるからこそ、続けていけるのです。
「こんなのパンじゃない」と思っていた商品が一番人気に?

「ひとぱん工房」には、「ロブロ」というパンがあります。これはデンマーク発祥のパンで、北海道産のオーガニックライ麦粉を100%使って作っています。さらに、ヒマワリの種や亜麻仁といったスーパーフードもたっぷり入っていて、ずっしりと食べ応えのあるパンに仕上げているんですよ。
正直なところ、パン職人としての私からすると、これは一般的なふわふわのパンとは全く違う、いわば「穀物の塊」のようなパン。ライ麦特有の酸味もあってクセも強いので、「こんなマニアックなパン、日本ではなかなか受け入れられないだろうな…」と、最初は売れるかどうか半信半疑でした。
ところが、お店に出したところ、私の予想は嬉しい形で大きく裏切られました。
「待ってました!」
「こういうのが欲しかったんです!」
と、健康志向のお客様が次々と手に取ってくださり、あっという間に売り切れてしまったのです。ご予約のお電話までいただくほどの人気商品になりました。
この時、私は「自分が売りたいものと、お客様が求めているものは、必ずしも同じではない」ということを、改めて痛感しました。自分の固定概念で「これは売れないだろう」と決めつけていたら、この人気商品は生まれていなかったのです。
お客様の反応は、まるで「宝探し」
マーケティングの世界では、AとBの2つのパターンを用意して、どちらの反応が良いかを試す「ABテスト」という手法があります。
難しく聞こえるかもしれませんが、私たちのような小さなお店でも、日々これの繰り返しです。
- 新しいパンを2種類出してみて、どっちが先に売り切れるかな?
- 商品の並べ方を少し変えてみたら、お客様の動きは変わるかな?
- 試食を出してみたら、買ってくれる人は増えるかな?
こんな風に、小さな仮説を立てて、検証していく。外れることも多いですが(笑)、予想がピタッと当たった時の「よっしゃ!」という喜びは、何物にも代えがたいものです。まるで、お客様と一緒に答えを探す、謎解きや宝探しのような感覚で、とても面白いんですよ。
まとめ
今回は、カフェ経営の難しさから、お店を続けていくための考え方のヒントまで、私の経験を元にお話しさせていただきました。
カフェ経営に限らず、どんなビジネスも簡単なものはありません。しかし、難しさの中にこそ、大きなやりがいや面白さが隠れているのだと思います。
一番大切なのは、常にお客様のほうを向き、「どうしたら喜んでくれるかな?」と考え続けること。そして、時には自分の「当たり前」や「常識」を疑い、新しいことに挑戦してみる柔軟さを持つことではないでしょうか。
この記事が、これから何か新しいことを始めたいと思っているあなたの、背中をそっと押すことができたら、こんなに嬉しいことはありません。