国産小麦のパンがリーズナブルな理由

お客様から時折いただく言葉があります。
「国産小麦のパンなのに、こんなにお手頃価格で買えるなんて嬉しいです。」
この一言を聞くたびに、私は心の中で「よかった」と小さく胸を撫で下ろします。
でも、この値段には、私の小さな葛藤と強い想いが込められているのです。
数年前のことです。
スタッフのひとりが、ふと何気なく言いました。
「以前、国産小麦のパン屋さんでパンを買っていたんです。でも、どうしても他のパンと比べると値段が高くて……。続けて買えなくなっちゃったんですよね。」
その言葉に、私はハッとしました。
国産小麦のパンは、確かに原価が高い。
外国産小麦と比べれば、その差は歴然です。
だからこそ、販売価格も自然と高くなってしまうのは仕方のないことかもしれません。
それでも――
「国産小麦の美味しさを、一人でも多くの人に知ってほしい。」
その想いが、ずっと私の中にありました。
けれど、パンは生活の一部。日々の食卓に並ぶものです。
「美味しい」と思っていただけたパンでも、値段が続けて買えないものだったら、私の想いは途中で途切れてしまう――。
「毎週でも、安心して買ってもらえるパンでありたい。」
そう決意して、私は値決めの見直しに取りかかりました。
電卓を叩いては原価を見つめ、パン作りの過程で本当に「必要なもの」だけを残していく。
時には苦渋の決断もありました。
これまで当たり前に使っていた材料を見直すことも、お店の効率を考え直すこともありました。
「お店も守れる。そして、お客様の負担にもならない。だけど、国産小麦の魅力は伝えたい。」
何度も何度もそのバランスを探し続けて、たどり着いたのが今の価格です。
朝、店頭に並ぶパンを見ていると、私は少しだけ誇らしい気持ちになります。
そのパンたちには、国産小麦の香りと味わい、そして私の「想い」がぎゅっと詰まっているからです。
お客様がパンを手に取るたびに、こう感じてくれたらいいなと思っています。
「また来週も買おう。」
そんな日常の小さな「また来週」が、私たちのパン屋「ひとぱん工房」を支えてくれています。
そして、これからも。
ひとつひとつ、心を込めて焼き続けます。
お客様の「また来週」のために――。